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結婚式直前にシャゴビィさんが亡くなったことで、ヨゼフさんはジマショルグ邸を出ることなくあたしたちと同居することになった。
プルトではほとんどのカップルは結婚すると実家を出て、独立した世帯を営むようになる。例外は評議員が結婚した場合だけである。
実を言うと、あたしのすぐ上の兄ブラフォードも1年前ミダナァム・デショームと結婚し、姑シンシアさんと同居しており、話はあれこれと聞かされていたので、同居の心構えは出来ているつもりだったが、想像するのと実際一緒に住むのでは大違いだった。
あたしとヨゼフさんの衝突したわけは台所の使い方である。別にあたしが乱雑に使っているわけではないのだが、ヨゼフさんからするとあたしに勝手にいじられているような気分になるようだ。
「タイトネイブちゃん・・・お願いだからフライパンは上の棚にしまってくれるかな」
ヨゼフさんが言いにくそうに言うのだが、あたしは困ってしまう。背の低いあたしは、踏み台を使わないと上の棚に手が届かないのだ。
また調味料の場所とかもヨゼフさんが決めた場所にないと我慢ならないようで、あたしが何気なく置いたものを、神経質そうに置き直しているのを目撃すると居心地が悪くなった。
だからあたしはゴショに一度言ったことがある。
「料理はあたしが担当するから、ヨゼフさんにそう言って!」
するとゴショは首を振った。
「パパは料理が趣味だからね。パパに料理を任せればいいじゃないか」
「だって・・・」
あたしだって料理は好きなのだ。そのためにバハウルグを選んだというのに。ゴショは首を傾げた。
「じゃあ、日替わりで作るとか?」
「それじゃだめなの。だって、お互いにお互いの台所の使い方が気に入らないんだから」
「分からないよ」
ゴショは口をとがらせた。
「子どもじゃないんだから互いに妥協すればいいじゃないか」
「そりゃそうだけど・・・」
そんなことくらいあたしもヨゼフさんも分かっている。分かっているけどどうにもならないことはあるというのに。
「もう、いいよ。ゴショには相談しないから」
あたしは言っても伝わらないゴショに対していらだちを覚えた。ゴショはそんなあたしのことを分からないというように首を振ったのだった。
やがてあたしの妊娠が分かった。人よりもつわりがひどくて料理どころではなくなってしまった。そのためヨゼフさんに台所のことを任せるようになり、ヨゼフさんの機嫌はとたんに良くなった。
今まで大好きだったものを全然受け付けられなくなり、なんとか食べられるものはなぜか高価な宝珠の果実で作ったものばかり。ゴショはヤーノ市場でなんとか手に入れようとしたのだが、なかなか売っているものでもない。あたしはすっかり憔悴してしまった。
そんなあたしのために料理を工夫して作ってくれたのがヨゼフさんだった。いろいろな料理を作ってはあたしに勧めてくれる。その中にはなんとか食べられるものもあった。
「こんなにしてもらえるなんて嬉しいです」
あたしは思わず涙ぐんだ。夫のゴショよりもまめなヨゼフさんがおかしかったけど、本当に嬉しかったのだ。
「ん・・・ああ・・・シャゴビィもゴショの時そうだったから・・・」
ヨゼフさんはそっぽを向いたままそうつぶやいた。その横顔が寂しそうであたしはほろりとしてしまったのだった。
こんな風にヨゼフさんは体調の悪いあたしのことを人一倍気を遣ってくれたので、あたしとしてもヨゼフさんに対して感じていた腹立たしさを撤回せざるを得なかった。ここは年下のあたしが妥協すべきなのだろう。
鼻歌を歌いながら料理を作っているヨゼフさんの後ろに立って、あたしはこう言った。
「ヨゼフさん・・・あの・・・ごめんなさい・・・」
「ん?」
ヨゼフさんは何事?というように振り返った。
「・・・どうしたの?」
「あたし・・・ヨゼフさんの作るお料理大好きだから・・・お台所のことはお任せしちゃってもいいですか?」
ヨゼフさんは目をぱちくりさせ、それから照れくさそうに微笑んだ。
「私もタイトネイブちゃんの作る料理は好きなんだけどね。だけど、そう言ってくれるなら私はいっこうにかまわないよ」
「じゃあ、あたしはがんばって収穫してきますから」
「うん、期待しているよ。ただし、体調が戻ってからでいいからね」
「はい!」
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