<魔女が生まれる時 >

PCシチュエーションノベル(シングル)

文:ALF



 ずっと続くと思っていた世界‥‥その崩壊は、意外なほど突然にやってきた。
 異世界からの侵略者。彼らはパリを攻撃し、そこを死の都市へと変えた。
 そして、それからしばらく経った後、侵略者達はEU圏の各都市に対して核攻撃を行う。
 それは、多くの人々の命を奪い‥‥そして、それ以上に多くの人々の生活基盤を叩き壊した。
 放射能汚染された空気、水、大地が人々を死に追いやり、政府の消滅は法と秩序の消滅と同義で後には弱肉強食の掟が残った。
 今のEUはそんな世界である‥‥
 エリザベート・ルクセンブルクの家族は、死の都市に変わったパリに滞在していた。そして、核の洗礼を受けたウィーンには恋人がいた‥‥
 彼らがどうなったのか‥‥知る術はない。
 だが、万に一つの可能性を探して生きていると信じられる程にエリザは夢想家ではなかった。
 祈りは彼らの生存の祈願ではなく、死者の安息を願うために行われる。その瞬間からエリザは、自分の中にあった暖かな物が全て砕け散ってしまった事を自覚するようになった。

 何処かでガラスの割れる音がする。
 今の時代、ガラスを手に入れるのも難しいのに‥‥と、エリザは思った。
 ホテル兼自宅として使っていた、先祖が残した古城‥‥ルクセンブルク家の貴族としての歴史と、エリザの家族との思い出の染み込んだ家‥‥そこは今、暴徒達に襲われていた。
 宝飾品や食料は略奪され、金にならない物は戯れに破壊される。そんな中、エリザは数人の男達に組み敷かれていた。
 だが、その事すら他人事のようにしか思えない‥‥エリザは自分が壊れていると自覚した。その自覚は、自嘲の笑みとなって表に現れる。
「おい‥‥この女、笑ってやがるぜ」
「壊れたんじゃねえのか?」
 エリザの上で腰を振っていた男が、歪んだ笑いを浮かべて言う。それに答え、順番待ちをしていた男がエリザの顔を覗き込んだ。
 男達にエリザは笑顔のまま言う。
「どうでも‥‥良いじゃない。そんな事‥‥」
 どうでも良い‥‥
 どうだってかまわないのだ。自分が狂っているのか、狂っていないのかなど。
「世界が狂っているのですもの。女が一人、狂ったからといってどれほどの事だと言うの? 今はもっと‥‥楽しみましょう」
「何だよ、こんな立派な城に住んでるのに、中身はアバズレだったってのか?」
 男達の嘲笑が上がる。
 エリザはそんな男達の姿に微笑んだ。そして、エリザは心の中で呟く。
 ようこそ‥‥私の巣へ。
 貴方達は、暴力で私を捕らえたと思っているのでしょう。でも、捕らえられたのは貴方達‥‥
 貴方達が踏み込んだのは私が張った蜘蛛の巣。
 糸を引けば貴方達は踊る。
 踊らせてあげる‥‥私が生き残る為に。
 踊らせて上げる‥‥私から大切な物を奪った者達を滅ぼす為に。
 踊らせてあげる‥‥私が失った物を取り戻す為に。
「さあ‥‥もっと‥‥‥‥して」
 エリザは蠱惑的に笑い、男を受け入れた。
 憎しみも‥‥屈辱も関係はない。大切な者を奪われたと知ったその日から心は凍っていた。
 今はただ、目的を果たす為だけに全てがある。
 エリザの身も心も全て‥‥奪われた物全てを取り返したいという貪欲な情念と、奪った者達に対する苛烈な復讐心の為だけにあった。

 エリザが暴徒達の元に入り込んで、幾月かの時が流れようとしていた。
 エリザの城を拠点に、野盗となった暴徒達‥‥彼らの奪ってきた食料で命をつなぐ日々。
 生きる‥‥エリザ一人では、ただそれだけの事もできなかっただろう。食糧の確保と、自らの生命を守る盾として、エリザには野盗達が必要だった。例え、野盗のリーダーの情婦という屈辱的な立場となるより他無かったとしても。
 だが、所詮は野盗‥‥エリザの目的には力が足りない。エリザの目的には、より大きな力が‥‥そして、その力を繰る為の権力が必要となる。
 エリザは‥‥それを探していた。噂に聞いた帝国を。
 荒廃したドイツに新たに興った軍事国家‥‥それは、失われた秩序の再生とバの国への復讐を掲げ、周辺地域を次々に平定していると。
 その力‥‥それこそがエリザの求めた物。
 エリザは野盗達の目を盗み、帝国の情報を集め始めていた。

「お頭‥‥話って何です?」
 全員呼集とエリザに聞いて、野盗達は普段から会議に使っている部屋へと集まってきていた。
 だが、リーダーはその問いを受けて困惑げに眉をひそめる。
「あ? 俺はお前達の方から話があるとエリザに‥‥‥‥」
 リーダーの答に野盗達がざわめく。その様子をエリザは冷ややかに見つめていた。
 そんなエリザをリーダーは睨み付け、怒鳴る。
「これは‥‥どういう事だ!? エリザ!」
「ここはホテルですから。チェックアウトの時間が来た‥‥それだけです。お代は、皆さんから命を一つずつ‥‥」
 エリザは表情を変える事無く返す。
 その直後、ドアを蹴破ってフリッツヘルムに野戦服を着た兵士達が踏み込んできた。彼らの手の中のアサルトライフルが火を噴き、野盗達を薙ぎ払っていく。
 兵士達が弾倉一つ分を撃ち尽くす頃には、そこに立っている者はいなかった。
 ただ、まだ生きている者はいるらしく、弱々しい呻き声は流れている。
 エリザは血の海の中、野盗達の間を縫ってリーダーの元へと向かった。
 リーダーはまだ生きており、自身の血溜まりの中からエリザを睨み上げる。
「何の真似だ‥‥何なんだ」
「わからないんですか? 貴方達の死を条件に、貴方達の略奪に怯えていたこの辺りの離村が、帝国への恭順を受け入れたんですよ。そして‥‥帝国は約束した。貴方達、全員の死を」
 エリザは薄い笑みを浮かべた。そして、リーダーの懐に手を入れると、彼の拳銃を取り出す。
「仲間を‥‥俺を裏切ったのか?」
「仲間? 裏切る? 私は最初から貴方達の仲間じゃありませんよ」
 エリザは、拳銃の安全装置を外し、薬室に弾を送る。そしてそれを、リーダーの頭に向けた。
「な‥‥止め‥‥止めてくれ」
「ありがとう、最後に役立ってくれて。貴方達の命で、帝国行きのキップが買えましたわ」
 引き金は思ったよりも軽かった。
 飛び散った血が、エリザの顔を汚す。
 鮮血の赤で化粧をしたエリザは、リーダーの亡骸に語りかけるかのように呟いた。
「私はもう負けない。この世に存在する全てを利用して、私の怒りに触れる者全てを絶望の中で滅ぼし、私が手に入れる筈だった全てを手に入れる‥‥失われた全てを手に入れてみせる」
 復讐心も‥‥欲望も‥‥全ては、エリザの欠けた心を埋めようとするものでしかなかった。
 何よりも自分がその事を理解しながらも、エリザは復讐心と欲望に耽溺する。
 心を埋める物、それが見つかるその日まで‥‥



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