<銀髪女将奮闘記 〜旦那は暴れん坊編〜 >

PCシチュエーションノベル(シングル)

文:相原きさ


 な、なんとっ!!
 あのドイツに、日本で有名な温泉旅館が建設されたのだ。
 しかも純和風っ!!
 その旅館のオーナーが日本に何かを感じたのか、それとも他に策略があったのか‥‥それは分からない。だが、その旅館はそこにあった。
 ドイツに唯一の旅館は、もの珍しさもあってか、かなり繁盛していた。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 四つ指を付き、頭を下げながらお客を出迎えるのは、その旅館の女将を営むエリザベート・ルクセンブルク。淡い桜色の着物が彼女の銀髪にとても似合っているようだ。
 この美人な彼女がこの旅館を取り締まり、運営しているのだ。

 そして、今日も忙しい日が始まる。
「女将っ!! そばアレルギーの方がいらっしゃるんですが、どうしますかっ!?」
「それなら、そのお客様の分だけうどんに差し替えて下さい」
「女将っ!! トイレットペーパーが切れてしまったんですっ!! 予備は何処ですか!?」
「予備なら裏のロッカーに入っていますよ。‥‥わかりました、すぐ持っていきます」
「女将っ!! お客様がビールを零してしまいましたっ!!」
「雑巾を用意していきなさい。ほら、急いでっ!! 畳に零れたら染みになってしまいます」
「お箸が使えないってお客様がいるんですが‥‥」
「そのためにフォークとスプーン、ナイフを用意しているでしょう? それを持って行きなさい。え? 場所を知らない? ‥‥わかりました。私が取ってきます」
 忙しすぎて休まる時がない。終わったと思えば、次のアクシデントが起きる。それを解決したと思ったら、次の仕事が始まり、またアクシデントが起きる。その繰り返し。
 やっとエリザベートが息を付けたのは夜中の1時過ぎであった。
「ふう、今日も忙しいかったですね。でもその分、売り上げが‥‥」
 にこにこと嬉しそうに売り上げ台帳を見る。
「!!!!!!!??」
 売り上げがあるはずの金額が、何故かマイナスになっていた。
「な、何でっ!?」
 いや、売り上げは確かにある。いい金額になっている。明日の運営費もきちんと用意されている。しかし‥‥その後、売り上げが全て消えているのだ。
 『社長の指示により』。
 そう前置きして売り上げの殆どが消えている。
「こ、これは‥‥どういうこと、ですか」!?」
 思わず側にいた仲居頭の女性に声を掛けた。仲居頭は眠そうに目を擦りながら。
「いつものことではありませんか。いつも女将の旦那様である社長が、売上金を全て持っていき、株につぎ込んでいる‥‥女将も知っていることじゃないですか」
 言われて思い出した。
 エリザベートの今の旦那はかなりの浪費家であった。エリザベートが苦労して集めたお金を、彼はすぐ別のことへ使ってしまう。しかもそれが別の企画に使い、旅館に帰ってくるというのならいいのだが‥‥残念なことに彼は潰れそうな企業ばかりに株をつぎ込み、逆に損害となってしまうのだ。その上、ギャンブル好きと来ている。
「こんなんで、この旅館の借金を返せるのかしら‥‥」
 思わずエリザベートは呟いた。呟き、借金があることを思い出した。そのとたんに頭のこめかみ部分が突然、きゅうっと痛く感じた。
 いや、それだけではない。
『こんなこと、何処かで見たような気が‥‥』
 気のせいだと思いつつも、気になって仕方ない。
 けれど、何故、見たような気がしたのだろう?
 ふと疑問が起きる。
「女将っ!! 旦那様が帰ってきましたよっ!!」
 先程の仲居頭が大きな声で知らせてくれている。
「まずは、彼にきちんと言わなくては。今日こそは絶対に株とギャンブルを止めてみせますっ!!」
 そう意気込み、振り返ったとき。

 ガンッ!!!!

「いったっ‥‥」
 起きあがり、痛む頭を抑えるエリザベート。
「もう、ぶつかったのはこのベッドの棚ですね‥‥」
 ぽこっとエリザベートはその手で棚を叩いた。どうやら、その棚に頭をぶつけてしまったようだ。
「火花が散るかと思いました」
 エリザベートの瞳は痛みで少し潤んでいる。
「‥‥‥‥あら? これって‥‥」
 ふと、辺りを見渡した。
 先程は旅館にいたはず。そして、自分は着物を着て女将をやっていた。
 しかし、目の前の風景は何だろう?
 綺麗に整頓された机、お気に入りのクローゼットに鏡台。そして、レースのカーテン。どれも旅館にないものばかりであった。
 いや、旅館ではない。
 ここは‥‥。
「わたくしの部屋‥‥」
 やっと分かった。これが本当の『現実』。
 先程の旅館話が『夢』だったのだ、と。
「ぷっ‥‥ふふふふ、あははははっ!!」
 とたんに笑いがこみ上げてきた。なんて夢を見たのだろう。こんなことはあり得ないのだから‥‥。
「でも、何でわたくしの旦那様が、あの方なんでしょう?」
 夢に出てきた旦那は確かに、エリザベートの上司である総統であった。
「‥‥‥‥‥」
 思わず言葉を失う。
「と、とにかく、このことはさっさと忘れましょう」
 エリザベートは立ち上がり、時計を見た。そろそろ起きて支度を始める時間だ。
「わたくしにはやることがあるのですから‥‥」
 気が重くなるのを感じながら、エリザベートは職場へと向かった。
 あの上司の待つ、あの場所へと‥‥。

●ライターから
 初めまして、相原きさです。今回は初めてのノベル受注とのことでしたが、いかがでしょうか? コメディ風に纏めてみたのですが、どうだったでしょう? 楽しんでいただけると嬉しいです。もし、良ければ感想などをファンレターで聞かせて下さいね。
 それでは、今日はこの辺で。今回はノベルを注文していただき、ありがとうございました☆


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