出 奔


●登場人物紹介

ユージェニー・ハノン・フーリエ
エキセントリックな鎧錬金術師。帝国3博士の1人メア博士を尊敬し、師と仰いでいた。PL:ふーみん
フェル・テルミン
ラファルツ機甲兵工房で、この当時新型血液を開発していた鎧錬金術師。PL:イワさん
ディノ・グランリード
ラファルツ工房・警備主任。苦労が多い。PL:海石さん
ヴィクトリア・アシュレー
ディノの友人のギガンテック。帝国軍を除隊し、現在はエクシズのどこかにいるはず。(実家はサン・エクシズ)
どこかっていうのは、リア移動するからでして。PL:麻婆
リースフィア・パルム・メア
メア博士の孫娘。NPC。今いろいろな意味で辛い立場に立たされている。

 「いったい、どうして!? あたし、こんなこと信じたくないよ!!!」
新型血液を開発しているテルミン工房に絶望的な金切り声が響き渡った。声の主は、ユージェニー・ハノン・フーリエ、主任であるフェル・テルミンを手伝っていた黒髪の鎧錬金術師である。
「だけど事実だよ、間違いなく」
フェルはなるべく冷静に聞こえるようにユージェニーに言った。
「あれ(ハッハーリ)がメア博士の設計した物であることはリースだって認めたんだし、あたしだってそう思う」
「だけど、だけど!!!」
ユージェニーは感情が高ぶり、混乱のあまりそれ以上言葉を紡ぎ出すことができないようだった。
「ジェニー、ショックなのは分かるよ。あんたがメア博士を人一倍尊敬していたのはあたしがよく知っている。だけど認めなきゃしょうがないんだよ」
フェルは年上らしく、穏やかにユージェニーをなだめようとした。しかし、ユージェニーは両拳を握りしめ、ぶるぶると身を震わせた。
「決めた、あたし、メア博士に会いにエクシズまで行く!」
「そんな無茶な」
「無茶なんかじゃない! じゃないと納得できない! どうしてウソの事故まで起こして、アガーナ商会に協力しているのか聞き出してやる。じゃなくちゃ、あたしは、あたしは…」
ぼろぼろと涙を流しながら叫んでいるユージェニーを、フェルはどう慰めて良いやら分からなかった。今はなにを言っても無駄だろう。仕方なく、しばらくそっとしておくことにした。冷静に考える時間を与えれば、少しは気分も落ち着くだろうと思ったのだ。

 ところが、それから数時間後。身の回りの荷物をすべて小さなリュックサックに収め、旅支度を済ませたユージェニーがフェルの部屋を訪れたから、さすがのフェルもひっくり返るくらい驚いた。
「ジェニー、あ、あんた!」
絶句するフェル。小柄なユージェニーはフェルを上目遣いに見つめながら、ぺこりと頭を下げた。
「今までお世話になりました。新型血液、完成までいられなくてごめんなさい。フェルさんにだけは知っておいてもらおうと思ってご挨拶に来たんです」
「ちょ、ちょっと待って。十分でいいから!」
フェルは無理矢理ユージェニーを自室のいすに座らせると、慌てて飛び出していった。行き先は、ラファルツ工房警備主任、ディノ・グランリードのところである。
 血相を変えて飛び込んできたフェルを見て、ディノも多少驚いたように眉をひそめた。
「どうしたというのだ?」
「ジェ、ジェニーがエクシズに行くって」
息を切らせながら事情を説明するフェルに、ディノはうなずいた。
「分かった。今すぐジェニーを説得しよう」

 「エクシズに行ってどうするつもりだ?」
ディノの尋問するような口調に、さすがのユージェニーもいすに座ったまま身を縮こめた。小さい身体が余計小さく見える。
「メア博士に会いに行こうと思ったんです」
声も先ほどとは違って大人しい。ディノは顔をしかめた。それで今ディノ達警備担当者を悩ませている謎が解明できるのなら、ディノ自身がエクシズに行っている。
「君の気持ちは分かるが、あまりにも危険すぎる」
ディノはこんこんとユージェニーを説教し始めた。
「先日、作業員が殺されたことくらい君だって知っているだろう。私は君を危険に巻き込みたくない」
「でも、納得できないわ!」
ユージェニーは反論を試みようとしたようだった。
「ディノさんがここを離れられないのなら、あたしがエクシズに行って…」
「エクシズに行って、アガーナ商会の門でも叩くのか?」
ディノはユージェニーの言葉をぴしゃりと遮った。
「それは…」
とうつむくユージェニー。フェルは少し離れて、二人の様子を不安そうに見守っている。
「メア博士のことは私たちに任せて…」
とディノが言いかけたとき、ユージェニーははじかれたように立ち上がった。
「やっぱりエクシズに行きます! ここで待っているのはあたしの性分じゃないもの!」
「やれやれ」
ディノはお手上げという風に肩をすくめた。
「じゃあ聞くが、エクシズには知人でもいるのか? せめてつてくらいはなくては、行っても埒があかないだろう?」
「…いいえ」
ユージェニーは唇をかんだ。ディノは腕組みをしてユージェニーを見つめていたが、ふと思い出したようにこう切り出した。
「ジェニーはヴィクトリア・アシュレーを知っていただろう?」
ユージェニーはちょっと考え込んでいたが、ぽんと手を叩いた。
「ああ、あのギガンテックのおばさん! 一時期父さんの元で整備技術を習っていたわね。すっごい筋肉を自慢してたっけ」
「彼女が実はエクシズにいる」
それを聞いたユージェニーは不思議そうに首を傾げた。
「エクシズで特殊任務にでも就いているの?」
「違う違う、今は除隊してエクシズの親元に帰ったのだ」
「えー! あの人、本当はエクシズの人だったの!?」
と素っ頓狂な声で叫ぶユージェニー。ディノは耳を押さえながら頷いた。
「まあ、あまりおおっぴらにはできない話だが。ジェニーがどうしてもエクシズに行くと言うのなら、まずはヴィクトリアを頼るが良かろう」
「うーん…」
ユージェニーは考え込んだ。ヴィクトリアに頼ってもメア博士に会えるとはとても思えない。だが、機甲兵操縦技術を持つヴィクトリアはエクシズでも優遇されている可能性は高い。場合によってはアガーナにコネを持っているかもしれない。
「…分かったわ、最初はヴィクトリアさんところに行ってみることにする」
 ディノは、以前ヴィクトリアから聞いていたサン・エクシズにある実家の住所をユージェニーに伝え、ユージェニーはそれを握りしめると、頭に自分の鳩ルージョン「シルフィード」を乗せて意気揚々と旅立っていった。
「みんなには出ていった理由は内緒よ。特にリースフィアには絶対に内緒にしておいてね!」と言い残してから。

 「いいの、ディノ?」
ずっと様子を見守っていたフェルがディノに言う。ディノは首を振った。
「いや、いいとは思ってない。だが、禁じたところでジェニーは勝手に飛び出してしまうだろう。だったら、エクシズの知り合いのところに誘導してやった方がまだ安全だ。ヴィクトリアならジェニーの立場や気持ちも理解してやれるだろう。そういう女性だからな。本当は旅しているうちに、頭が冷えてくれればいいのだが」
「あの子じゃ無理だね」
とえらくあっさり認めるフェル。ユージェニーとは長いつき合いだから、思い立ったら止まらない性格だということはフェルはよく知っていた。思わず溜息をつく。
「工房を勝手に離れた鎧錬金術師なんて大変なのに、あの子ったら」
「戻ってくるのも辛い、か…」
ディノは遠い目をした。
「とりあえず、他の連中にはなんて説明するかだけ考えておかないとなあ」
「そうだね、古の機甲兵を調査しに行ったっていうのはどう? あの子、この前ニザームから持ち込まれた残骸にものすごく興味を示していたから。それに、ヘンリク博士が言っていた騎甲兵の話を知って、興奮していたんだ。ほら、あの子、マリオンの研究もしてただろ」
「まあ、そういうことにしておくか」
ディノは、ちょっと疲れたように首を回すと、じゃあ、と言い残し、その場を立ち去っていった。
フェルは
「あの情熱はある意味うらやましいかもね。あたしもメア博士には会いたいけど…」
と自分に言い聞かせるように呟くと、仕事に戻るために白衣を羽織ったのだった。

- The End -


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